4月の記事で書いた通り、ゴールデンウイークは去年に引き続き北海道を巡ってきた。
摩周湖、野付半島のトドワラ、知床峠……と今回行きたかった場所を無事探訪することができて大満足の旅となった。
詳細な旅のレポートを書くと何週間もかかるので今後少しずつまとめるとして、この記事では印象深かった風景の写真を並べながら旅の感想を短めに語ってみようと思う。
時間が凍った風景

摩周湖第一展望台の駐車場からテラスへ登っている途中、ふと「久しぶりだし、下を向いて湖面を見ないようにして行ってみよう」と思いついた。
展望台の先にたどりついたところでぱっと顔を上げたら、どんな風景が飛び込んでくるだろう?
過去これまでに五回以上摩周湖を訪れたことはあったけど、そんなことを考えたのははじめてで、今思うと「何か」を感じたのかもしれない。
ここは霧の摩周湖というくらいで霧に覆われていることも多く、この日の前日は数メートル先の視界さえ真っ白だったそうだ。
今日はどうだろう……展望台から帰ってくる人達はみんな笑顔だ。
期待をふくらませつつ地面を見ながら歩いて行って、展望台の先端に辿り着き、そして顔を上げた。

背筋がぶるぶるっと震えた。
景色を見て体が震えるなんて、生まれてはじめての体験だった。


あまりに「鏡」過ぎて、リアルの景色なのにも関わらず、脳の認識がバグって合成写真やトリックアートを見ているときのような感覚だった。
これが絵であれば「おい、やりすぎだ、リアリティがない!」とツっこんでしまいそうだ。
「この絵には雲や風が足りない」「時間が停まってみえる。やり直し!」
いやしかし、現実にこうなのだから仕方ない。

実際この場に立って眺めていると、現実感がなさ過ぎて笑いが込みあげてくる。
原理としては、水たまりに空が映っていることの拡大版だと頭では理解出来ても、意識が追いつかない。
すごい、と言う言葉しか出なかった。
周囲のひとたちも大体みんな「すごい」か「綺麗」か「うわあ」しか言ってない。
わかる。

・
・
・
時間が凍り付いたみたいなその景色はほんのひととき。
わずか10分後には幻のように消えて無くなっていた。






・
・
・
湖底散歩
快晴続きだった去年の北海道旅と違い、今回は道中で雨風に見舞われることもあった。
それは悪い事ばかりではない。
そんな天候だからこそ見られない風景にも出会うことができた。

雨にけぶる、枯れた湖底。
無数の枯れた木の根元が墓標のようにも、遠い別の惑星の荒野のようにも見えた。

ここは糠平湖と言う人口のダム湖で、季節によっては水位が上がって一面水浸しになる場所。
けれどゴールデンウイーク頃はまだほとんど水がない。
本来は湖底なので、地面はゆるゆる。
歩く度に靴が沈んでどろどろ、水が入ってがぽがぽになったけど、見る間に雨が洗ってくれた。
糠平湖には「タウシュベツ川橋梁」と言って廃線となった鉄道橋が今も残されており、知る人ぞ知る観光スポットとなっている。



霧雨が彩度を落とし、遠近感も曖昧になる。
かすむ視界の向こうでアーチを形作る橋脚。
幻想的な風景に、たったひとり見入っていた。
自分が今いったいどこにいるのか、一瞬わからなくなった。

この場所はヒグマが多く生息する場所ということもあって、事前に観光協会へ予約をした上で当日に本手続きを済ませてはじめて、訪れることが許可される。
そんなハードルの高さもまた、この風景の魅力を高めてくれていた。


・
・
・
水の中の虹

オンネトー。
風雨来記1をプレイした人ならきっとみんな憧れたスポットだと思う。
南の海とも、清流ともまた違う、碧からエメラルドグリーンのグラデーションがとにかく美しい。この絶景を、相馬轍は「水の中の虹」と表現していた。
摩周湖や阿寒湖のような一般的知名度はないけれど、ただただその美しさと、ここを記事にすると最高評価がつくという点から風雨来記作中で非常に強い存在感を持つスポットだった。
過去に何度か訪れたことはあったものの、いつも曇っていたため、ゲーム内のような美しい風景は見られた試しがなかったんだけども…………





最高の時間だった。
・
・
・
オンネトーを、寒い時期に訪れたからこその気づきがあった。
この日バイクでこのあたりを走ってみると、道がところどころもやで覆われていた。
いや、あたりに漂う硫黄の匂い。
もやではなく、これは湯気だ。
周辺、至るところから湯気が立ち上っていた。
道の隅や木々の間、アスファルトや砂利道の隙間――



オンネトーの湖面の不思議な色は、火山性のミネラル成分が由来だということは風雨来記で語られていたので知っていた。
そのせいで水質が酸性に寄り、生息する生物が少ない(ザリガニと限られた魚のみ)のだとか。
この辺り一帯が温泉地帯だということを、情報だけでなく、視覚や嗅覚で感じ取ることができたのが嬉しかった。




・
・
・
プレミアムな時間、実感
自分が北海道上陸した日の前日と前々日は、天候がかなり荒れて北海道各地で吹雪いたそうだ。
上陸後は雪こそ降らなかったものの、夜の気温は0度からマイナス2度くらいまで下がった。
当然夜間は凍結のおそれがあるから、標高が高い峠道などは明るいうちに越えておきたかった。

札幌から東へ進み、狩勝峠をようやく越えたのは日がとっぷり沈んだ午後七時過ぎ。
路面はほとんど乾いていたものの、道の両サイドに積み上がった大量の雪がものものしい。
強風が吹き荒れていて、バイクのタンク上に置いた手袋が一瞬で数十メートル吹き飛んでいった。
「今俺は北海道へ来ている!走ってる!」
という実感をかみしめながら、今日、今この瞬間ここを訪れたからこそ見ることが出来た絶景を堪能した。
あと1日早くても、遅くても、1時間早くても、遅くても、この風景は見られなかった。
叫び出したいくらいの気持ちよさだった。



・
・
・


・
・
・
タイムリミット

今回の旅のメイン目的地のひとつ、トドワラに到着したのは日が落ちてしばらくした頃だった。
細い半島の先にある場所なので、ここはヒグマの心配はないだろうということで、懐中電灯片手に散策してみた。
(なお、帰ってから調べてみたら時々出没例があるらしい……)

昔は、立ち枯れたトドマツの林があった場所。
風雨来記1のヒロイン時坂樹は、監督がここを訪れた際にインスピレーションを得て生まれたキャラクターだった。(オフィシャルコンプリートワークスのインタビューより)
当時はまだ林立していたトドワラ。
近い将来見られなくなるとは作中でも語られていたけれど、それから二十数年たった今、残っているのはもう十本にも満たなかった。
去年のオトンルイ風車群もそうだったけど、近い将来完全に見られなくなる日がくる前にこうやって訪れることができて、よかった。

まあ……そんなこと言いながらも、まだまだここから数十年先までしぶとく立ち続けている可能性だってあるんだろうけど。
それはそれで面白い。

・
・
・
天へ昇る心地

「天に続く道」。
ネーミングが素晴らしい。
視覚効果の妙というか、数十キロに渡って真っ直ぐでありつつ途中で大きく勾配が変わるこの道、確かに天にのぼっていくように見えた。


訪れた時間が黄昏時ということもあって、「天」にあたる部分が夜景でキラキラ瞬いているのもまた浮き世離れして美しかった。



・
・
・
溶岩通路

ここは「苔の回廊」という、支笏湖のほとりにあるスポット。
支笏湖は摩周湖などと同じカルデラ湖、つまり火山がばくはつして中身が吹き出したあと陥没してできた湖(シコツもアイヌ語でそのまま「大きな窪地」を指す)で四万年ほど前に生まれたそうだ。
周辺にはまだいくつもの活きた火山がくっついている。
その山のひとつが今から300年ほど前に噴火した際に流れ出た溶岩が固まり、その後浸食されてできたのがこの「苔の回廊」。
普通の川のように常時水が流れることはほとんどなく、迷宮のような独特な造形を様々な種類の苔が覆う非日常的な光景が広がっている。
昨年も訪れたお気に入りのスポットだ。

・
・
・
本日今から開通!

自分が知床に至った当日、ちょうど知床峠(知床横断道路)の冬期通行止めが解除された。
夜間は路面凍結のおそれがあるということで、当面は16時までの時間限定。
これが、16時までに登り始めていれば大丈夫なのか、16時には問答無用でゲートが閉じられるのか分からなかったので道の駅で確認したところ、16時に入場を制限するということでそれまでに入っていれば大丈夫だろう……とのこと。

熊ノ湯でひとっ風呂浴びてから、喜び勇んで峠を走っていくと、途中から雲に突入。
真っ白の世界が広がった。
峠付近は風が荒れ狂い、まっすぐ立っているのもつらいような状況。



すぐに降り始めると見る間に雲が晴れ、ウトロ側へ着いたときには見事なまでの快晴となっていた。
知床半島の反対側の羅臼は風も強くどんより曇っていたのに、直線距離でわずか数キロでの天候の急落差に思わず笑ってしまった。


この知床峠は風雨来記1でも印象的なスポットのひとつだ。
繰り返し訪れることで最高評価の記事「山が笑っていた」のイベントに遭遇できる。
作中の知床峠も雲に包まれて山はみえない。
その状況を、手探りで迷いながら旅を続ける自分に重ねて物思う主人公。
すると一瞬だけ雲が晴れて羅臼岳が顔を覗かせる。
それを「山が笑っていた」と感じ、まるで応援されているようで前向きな気分を取り戻す……というエピソードだ。
知床五湖で「切り取るのではなく写し込む写真」を会得したり、カムイワッカで温泉を堪能したり、道の果て・相泊で旅情を感じたりと、知床周辺は風雨来記1の魅力を語る上で無くてはならない場所だった。
今回こうやってバイクで走ることができて大満足だ。
・
・
・

・
・
・
ところで、今回の旅ではある「植物」と縁深かった。
その植物とは……

これだ。
ふきのとう
今回の旅でいちばん印象的だった植物は間違いなく「ふき」だった。
初日から最終日まで、道中行く先々で、ことある毎にふき……というか、「ふきのとう」が出迎えてくれた。
ふきのとうは、ふきの花蕾(つぼみ)のことだ。
天ぷらで食べると美味しい。
本州のそれは指先くらいの小型だけど、北海道のふきのとうはでかい。
ということで、道中撮ったふきのとうの写真をまとめておく。



















道中、「採って食べる」という発想は湧かなかった。
私有地でなければ、たとえば公道の道ばたに生えているふきのとうなら採って食べても法的に問題ないかもしれない。
また機会があればキャンプの夜、天ぷらや味噌汁にして食べてみようかな。
MT125

今回お借りしたレンタルバイクも去年と同じMT125。
125は決まった読み方が無い。
ワンツーファイブでもイチニーゴでも正解だそうだ。
この数字は「排気量125ccクラス」という意味で、高速道路には乗れないけど速度制限等は普通自動車と同じという、「原付2種」に当たる。
エンジンが小さいので車体も軽く取り回しがよくて、乗車姿勢も比較的楽なため長時間のツーリングに向いている。
パワーも峠の上り坂以外では不足がなく、平地ならむしろパワフルに感じるくらい。
去年と同じ車体だと思って一年ぶりだ、久しぶり……なんて考えていたら、走行距離287キロというほぼ新車が出迎えてくれた。
スタッフさんの話では、人気車種かつ長距離を走る人が多いために去年の開設期間の半年(北海道ということもあって冬期は休業)だけで走行距離が数万キロに達し、今年新車が更新されたのだそうだ。
以前の車体は中古バイクとして払い下げられてどこかの誰かのパートナーになっているんだろう。
再会できなかったのはちょっぴり残念だったけど、人気があるのはいいことだ。

今回も約1000キロ以上、雨風にもあたった長丁場のツーリングを元気に走りきってくれた。
素晴らしいバイクだ。
防寒と防風
ライディングウェア(服装)の話。
今回の旅では、
気温一桁の長距離バイクツーリングにおいては、防寒以上に防風が重要!
だとあらためて感じた。
普段の生活ではこのふたつを別々に意識することは少ないと思う。
基本的には防寒が重要視されて、防風はそこにセットでついてくる感じがほとんどだと思う。
ただ、「寒い土地をバイクで長時間走る」場合、速度を上げるといくら防寒をこだわってもわずかな隙間から冷たい空気が入り続けてすぐに体が冷え込んでしまう。
おまけ程度の防風性能ではこの「入りこむ冷気」に対応しきれない。
「こたつ」をイメージすると分かりやすい。
こたつはこたつ布団によって温もりが保たれる。
こたつ布団に隙間があって、そこをたえず外気が通り抜けたらせっかくのこたつの温もりは保たれず抜けきってしまう。
自分は日常で週2、3回、峠を越えて30分くらいバイクを走らせる用事がある。
京都の最低気温は真冬はだいたい0度くらいの気温、一番低いときでマイナス2度程度になる。
そういう意味では比較的、寒い中走ることには慣れている方だと思っていた。
けれど、甘かった。
問題は「走行時間」にある。
30分くらいなら、普段着の上に防寒ジャケットを羽織る程度の服装で何とかなる。
走り始めて15分くらいで体が冷え始めるけれど、完全に冷え切る前に目的地に到着するからだ。
けれど、この時間を超えると……
たとえば1時間、2時間続けて走るとなると、体の冷えは文字通り「致命的」になる。
体の芯から震えてきて、手足が思う通りに動かなくなってアクセルやブレーキの操作にも支障が出てくる。
「冬期ツーリングに対応したバイクウェア」は、単なる防寒ではなく、高い防風性能を前提とした上での防寒性を備えているのが特徴だ。
今回着ていったバイクウェアは、冬でも大丈夫なオールシーズンタイプ。
去年の北海道ツーリングでも同じものを着用したけど、宗谷岬では耐えきれないほど寒かった。
そのため今年はインナーをたっぷり着込んで臨んだんだけど……
今年の北海道は去年以上に寒くその上、道内でも特に気温の低い道東を巡ったこともあって、道中あまりに体が冷えた。
やっぱり、冬対応とはいえオールシーズンタイプでは力不足で、真冬専用のタイプにするべきだったかなと後悔していた。
のだが。
ウェアのあちこちについているボタンをしっかりと留め、腕や手首など各所にあるベルトを締め、左右非対称で前面からの風をブロックするというジッパー(三つもある)を完全に閉じると、ほとんど風が入ってこなくなり、飛躍的に体温が保たれるようになった。
当初たくさん着込んでいたためファスナーを全部閉じることができなかったので、インナーを二枚減らしたにもかかわらず、むしろ温かく走れるようになったくらいだ。
「バイクウェアの性能を引き出すためには適当に着てはいけない」
「ツーリング中の防寒のためにはまず防風性能を重視するべし」
という教訓を得た出来事だった。

北海道ぐるめ
ここでは、今回北海道で食べたものをざっと紹介しよう。
旅の道中ではあまりグルメを重視しない自分だが、去年はあまりに食べなすぎたので、この旅ではちょくちょく美味しいものを食べる機会を作った。


旅の初日の夜ご飯。
セイコーマート・ホットシェフの「手作りマヨたれザンギ弁当」。
ボリュームたっぷりがっつり、味も美味しくて、価格は税抜き480円!
ザンギは北海道式の鶏からあげのこと。
店内調理というところも含めて、毎年の島根ツーリングで食べているローソンポプラのHOT弁当ブランド通称「ポプ弁」の「チキン南蛮弁当」とどことなく近しいものを感じた。

風雨来記的には旅の初日の夕食はキャンプで肉を焼いて食べたいところだが、初日はついつい欲張りすぎて21時を回るまで走ってしまうので、コンビニ弁当に頼ってしまいがちだ。

朝ごはん。
セイコーマートのしおパンとミルクコーヒー。

ガラナの強炭酸水(無糖)。
気に入って、今回の旅で何度かリピートした。
ガラナ飲料の特徴に「コーラ以上の甘ったるさ」があると思っていたけど、別に甘さが無くてもガラナという飲み物は成立するんだと新鮮な気持ちになった。
普通のガラナよりこっちの無糖の方が自分は好みだ。

来年もお世話になる気がしたので、セイコーマートのカードを新しく作って(さすがに20年近く前のカードはもう使えないだろう)アプリにも登録した。
・
・
・
知床・羅臼では魚介市場に興味津々。



「家が近かったらいっぱい買って帰りたいのに!」と思いながら魚介類を眺めた結果……

食堂に駆け込んでしまった。
注文したのは、羅臼限定の「クロハモ丼」と「ほっけ定食」。


クロハモ丼(これでもミニサイズ)。
商品説明にはウナギに似ていると書かれていた。
クロハモはアナゴの近縁種らしく、他の魚の漁獲に混じって採れる深海魚だそうだ。
これが……めちゃくちゃ美味しかった!
脂のノリ、カリカリの皮、ふわっとした肉質、ご飯との相性。
すべてが最高で、うますぎる。
後で見たネットのレビューだと、「さっぱりした味」とか「脂はあっさり」とか「ウナギとは別ジャンル」と書かれていたんだけど、自分が食べたやつはすごく「こってり」して、脂も「めっちゃノって」いて、「ウナギ(安物のべちゃっとしたやつ)よりウナギ(本場のウナギ専門店で食べる様な良いやつ)」と感じるくらい強烈に美味しかった。
思うにこれは、季節による違いなのかもしれない。
たとえば、暑い時期は脂が抜けて身も痩せぎみ、寒い時期は身もふっくらで脂がのる、みたいな。
もしくは、産卵・繁殖と関係あったりとか。
自分がまたここを訪れるなら絶対にリピートする、それくらい美味しく、コストパフォーマンスも素晴らしかった。

こちらは、ほっけ定食。
これを注文したので、クロハモ丼はミニにした。
写真ではサイズ感が伝わりにくいが、両手の平をあわせたよりもさらにでかい。
思ってたより二回りは大きかった。
しかもこれで「並」。
味の方はまさに王道で、「こういうのでいいんだよ、こういうので」と言いたくなるというか、食べたかったものが食べられたという満足感たっぷりの定食だった。
そんなわけでお腹いっぱい食べた。
これだけで体がかなりぽかぽかしていたんだけど、そのあとさらに羅臼の露天温泉・熊の湯に入浴。
知床横断道路の封鎖時間が押し迫っていたため15分ほどの入浴だったけど、食事と温泉、このふたつの相乗効果で体がぽかぽかになった。
おかげで知床峠走行中、まったく寒さを感じなかった。
むしろ終始、涼しくて心地よいほどだった。
温泉だけではここまで長い時間ぽかぽかが続かない。
「カロリー」というくらいで、消化吸収の際には体の内側から熱を帯びることを実感した。
寒い時にはしっかり食べることも大事ということだ。
・
・
・
最終日、飛行機の時間が1時間ほどずれたので、札幌でちょっと寄り道して回転寿司に入った。

ここ、「回転寿しトリトン」は自分がはじめて北海道を旅した頃に北見で誕生した回転寿司屋さんで、当時道中であったいろいろな旅人から「トリトンは旨い」「トリトンはいくべき」と言われたものだった。
当時はまだ回転寿司と言うと「種類も少なくネタも薄く鮮度も並で味も値段なり」……というような時代で、そんな中「北海道で採れた魚介を使った鮮度最高の寿司を回転寿司という業態で安く提供」というのはそりゃヒットするよな、と今さらながら思う。
現在では道内各地に進出して北海道を代表する回転寿司チェーンとなっているらしい。
実は、なかなか機会やタイミングに恵まれずけっきょく一度も行けず仕舞い。
今回約20年越しで遂に訪れることができた。
なお、GW中ということもあってか、三時過ぎに到着して20組待ち。2時間ほどかかった。
帰る頃にはそれが倍くらいに増えていたから、人気っぷりがすごい。
待つ際はアプリで管理されているので、呼び出し通知が来るまでは他の場所を観光したり買い物したりなどあまり待つことを意識しなくてすむのが便利だった。



どれも美味しかったが、「おお!」と声が出るくらい飛び抜けて感動したのはこの二皿。
アボガド天ぷら巻と、タコマヨ巻。
前者はアボカドの甘味と旨味、食感と寿司飯のマッチ具合がすごかった。
後者は、タコってこんなに美味しいの??!とガチで感動した。
しかも1皿100円。
無限に頼みたくなったけど、自分が頼んだ直後に売り切れになってしまった。

これは他では見たことない。
タコの子の軍艦巻き。
ミズダコの卵らしい。
とろっとした不思議な食感。
生臭さやクセはない。
味の雰囲気としてはウニが近いかも。
北海道ならではの食材なのかな。
良い体験になった。

写真を載せきれないほどたくさん食べて、最終的には三千円くらいだった。
・
・
・
千歳空港へ向かうため、札幌駅へ到着。
構内でふと、気になるものを見つけた。

駅構内にある駅弁屋さんの店頭。
そこに並ぶ弁当の一画で「柳もち」というものに目が止まった。

札幌駅名物菓子「柳もち」。
明治39年販売開始、札幌駅とともに歩み続けてきた名物……と書かれている。

付近には駅弁の自動販売機が設置されている。
どうもこの駅弁屋さん「弁菜亭(を運営する札幌駅立売商会)」は明治32年創業の老舗らしく、しかもその中で最初期から名物として推しだしていたのが先述の「柳もち」らしい。
いわば最初期の「駅弁」とも言える。
(立売商会の名前通り、当時は駅弁をホームで立ち売りしていた)
期せずして面白いものと出会ってしまった。
こんな素敵なものが駅ナカで何気なく売っているとは。
柳もちは日持ちせず(当日中)生産数が少ないため、日によっては午前中に売り切れてしまうこともあるらしい。
これも巡り合わせかもしれない、買っていこう。


消費期限は当日の23時まで。
使っているもち米はなんと「はくちょうもち」。
昨年の旅で探訪した最北の水田で栽培されていた、寒冷地専用品種だ。
このもち米はやわらかさが持続することが特徴で、有名な伊勢名物「赤福餅」にも北海道産はくちょうもちが使われていると聞いた。
去年の北海道旅で「はくちょうもちをいつか食べてみたい」と思っていたものだけど、一年越しにその願いが叶うとは。
こういう巡り合わせも旅の醍醐味というか、面白いところだ。


さて、味の感想だけども。
これ、すごく美味しい。ものすごく気に入った。
見た目は赤福と似ている。
ただ、味の系統や食感はかなり違う。
なんといえばいいのか、おはぎとあんころもちの中間を極めたような感じというか。
素朴と洗練の中間地点を発展させたようなというか。
そう、一言で言うと「バランスがとても良い」。
甘さのバランス、もち米感のバランス、あんこともちのバランス、すべてが絶妙な感じ。
もちをあんこでくるんだお菓子は多々あるけど、これまで食べたどれとも違う、面白い食体験だった。
上品だけどしっかり食べた感がある。
「駅弁屋さん」が作った甘味弁当、というのがしっくり来るボリューム感。
感動して声が出るような感じというよりは、いつまでも食べ続けてしまってあっという間に空になってしまうような美味しさだ。
これは今後も札幌駅を訪れるたびに買ってしまうと思う。

終わりに
まだまだ書きたいことは尽きないが、すでに随分長くなってしまったので今回はこのあたりにしておこう。
今後も機会を見つけて、北海道での旅の想い出を書いていくつもりだ。
ひとつだけ。
実は、旅に出る前は今回の北海道旅は風雨来記1を振り返るような旅になるかな、と思っていた。
摩周湖やトドワラなど、1のヒロインである樹ちゃんの印象深いスポットがメインの行き先だったからそうした場所を巡っていくと自然と「風雨来記を追いかけて」的な、過去作のストーリーを追憶する旅路になるんじゃないかなと。
けれど実際は、どこへ行ってもずっとリリさんのことばかり考えていた。
この風景をリリさんが見たならどんな感想を抱くだろう、この場所に彼女が立ったらどんな表情をするだろう、このカニを食べたらどんな風に喜ぶだろう。
行く先々で、そんなリリさんを思い描きながらシャッターを切った。
今回も実りの多い最高の旅だった。



コメント