「風雨来記」との出会い

初夏の北海道を舞台に、一ヶ月という期間、キャンプ道具一気を積んだバイクに乗って、行けるところまで行って疲れたら寝る

風雨来記は、2001年に株式会社FOGから発売された、そんな自由気ままな旅を体験できるアドベンチャーゲームです。

当時はまだパソコンやネット、デジカメも一般的ではなく、やっと通話とメールのできる携帯電話が普及しつつあった時代。

バイクとテントというアナログ的な旅を、最先端技術であるデジタル一眼レフとノートパソコンを駆使して毎日リアルタイムでホームページに投稿するというゲーム内容は、非常に斬新なものでした。

そしてそこで描かれた人と人、人と場所の出会いと別れ、旅の情緒は、時が経っても決して色あせることはありません。




以下、若干のネタバレを含みます。






風雨来記の最大の特長は、「旅をすること」自体がゲームの目的であることだと思います。

主人公(相馬轍・20歳)は、駆け出しのルポライター(旅の記者)。
気の向くままに巡った旅先で起こった出来事や、感じた思いなどを旅行記としてウェブページにアップし、出版界の記念コンテストで上位入賞を狙います。


そして旅が進むにつれて、主人公が大切な人々と死別して天涯孤独であり、旅の中にしか居場所がないことや、「アイツ」の死を認め、向き合って、前へ進むことこそが、この旅の真の目的であることなどが明らかになってゆきます。


答えに辿り着く手がかりは、父の遺した「お前が笑顔でいられる場所を探せ」という言葉。
そして、両親が結ばれるきっかけとなった、「オーロラの下で微笑む母」の写真。

最高の一枚、最高の場所、最高の笑顔――
巡り来る出会いと別れを繰り返して、どこまでも続いてゆく旅が描かれます。



あぁ。肝心なことを書いてなかった。



以下、重大ネタバレにつき、「風雨来記」を未プレイで今後遊ぶ予定の方はご注意を。



旅先で出会った異性との恋愛を描いたストーリーも、作品の大きな軸のひとつ。
そして、出会いがあれば、必ず別れがある。


主人公の青年が旅先で出会った女性と恋に落ち、思いが実ったとしても「旅の最後に必ず別れ」が描かれるのです。



風雨来記より以前、同社から「みちのく秘湯恋物語」という「東北を写真撮影しながら旅する花札ゲーム」が発売されており、その結末は主人公とヒロインが結ばれて旅が終わる、というハッピーエンドでした。


一方風雨来記は、既存の旅をテーマにする作品にありがちだった「自分はこのひとと出会うために旅をしてきたんだ」つまり、『旅はあくまでも手段だった』とする結末に不満を持ったスタッフ(風雨来記の監督さん)によって、「旅自体が目的」「終わらない旅」をテーマに企画されました。(ソースは「風雨来記・オフィシャルコンプリートワークス」スタッフインタビュー)




ヒロインたちとの個別ストーリーでは、スタッフの実体験も含めた、本人達の努力では決してどうにもできないような「別れざるを得ない理由」が、時に生々しく時に超然と提示され、主人公とプレイヤーの心を深く深くえぐってきます。



けれどその別れはまた、決してつらいだけのものではなく、お互いが前へ進むために、というどこまでも前向きなものでもあるのです。




感情がずたずたになるくらいに哀しい一方で、ぽっかり空いた穴から水が湧き出すみたいに、旅へ出たい!北海道へ行きたい!と、わけもわからず衝き動かされるような思いが満ちてくる。

そのエネルギーによって、実際に多くのプレイヤーを北海道へと運んだ


「風雨来記」は、そんな強烈なパワーに満ちた作品なのです。


筆者が風雨来記に憧れて行った北海道旅の初日、摩周湖の第三展望台で、自分と同じく、風雨来記の影響で北海道へ来たという旅人たち数人と偶然出会ったりもしたんですよ。

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