キミと、もしも、あの場所で。

母里ちあり

【この記事は】
・風雨来記3、風雨来記4に着想を得た二次創作小説です。
ネタバレ注意:【母里ちあり・エンディング】後を想定したエピソードです。
・当サイト内に掲載している二次創作物について不都合等がありましたら、ページ上部の問い合わせ欄よりご連絡ください。

キミと、もしも、あの場所で。

真剣な面持ちで、テーブルの上のノートPCと向かい合っていたリリが不意に、

「あーっ」

と大きな声をあげたので、隣でその横顔にぼんやり見とれていた俺は、イスごとひっくり返りそうになった。

「な、何だよいきなり。 俺の北海道の記事に、そんな驚くような要素あった?」

俺の問いには答えず、リリはすこし興奮した面持ちでモニターを指さしている。

「キミがこの、北海道の取材旅行してたの、よく見たら6年前じゃん」
「うん。そうだよ。言ってなかったっけ」
「聞いてなかった!」
「6年前に何かあるの?」
「あるよー。ほら、初めて会ったときの会話、覚えてる?」

 初めての…。
 あれは岐阜の取材を初めて間もない頃、飛騨の…

「種蔵で会ったときか」
「そうそう」
「えーと確か……ナンパと間違われて」
「そ、そこは置いときまして」
「俺がルポライターやってること話したんだっけ」
「うん。それでそれで?」

こくこく、とリリはうなずいて先をうながした。

「今まで行ったところでどこが印象的か聞かれて、北海道って答えたな」
「答えた答えた」
「……その後、北海道の美味しいものの話になったような」
「うんうん。何でそうなったのかな?」
「え」

なんでそうなったのか。
えーと。

「……なんでだっけ」
「…………じーっ」
「リリさん、そんなに睨まれると恐いんだけど」
「あ、えへへ……ごめんごめん」

ころころ変わるリリの顔を見ていたらなんとなく思い出した。
『北海道で食べた美味しいカニのことでも思い出してたんでしょ!』

「ああ。確か、リリも中学の修学旅行で北海道に行ったって話か」
「それ! それが6年前!」
「へえ」
「ってことは、もしかしたら、
 どこかですれ違ってたかも、じゃない!?」
「無いかな。北海道は岐阜よりずっと広いし」
「即答!」
「うーん。旅人同士ならともかく、さすがに修学旅行生の団体となるとね。
 あの頃の俺、若かったし、いかにも人の多い観光地!ってところは避けてたからさ」

リリはおおげさな身振りでノートパソコンを操作して、俺に見せてくる。
十勝岳を背にした雄大な丘の風景がそこにあった。

「で、でも、ほらこの記事! ここ、あれでしょ。ふらの!
 私もふらの、行ったよ!」
「あー、ここね。確かに富良野の写真だな。
 俺も思い入れのある場所だけど…」
「だけど?」
「この丘、観光地からは外れてるところだから、修学旅行生とすれ違うとは思えないな」
「えーっ。可能性、ちょっとくらいはない?
 あ、ほらほら、なんか私、この風景見覚えがある気が急にしてきたような……!」
「ないない」
「言い切りますねぇ……
 前にもどっかで言った気がするけど、キミはもうちょっとロマンもとうよー」

眉の根を寄せて、少し不機嫌そうに唇をとがらしているリリ。
もうちょっとノってあげてもよかったかもしれない。

「あはは、ごめんごめん。
 実際、もしリリと出会ってたとしたら、絶対印象に残ると思ったからさ」
「……私は顔を覚えられないし、キミもたぶん、
 あの頃の私と出会っても、それが私だとは気付かない気がするなぁ」
「え、そうなの。なんで」
「なんとなく」

曖昧にうなずいて、リリは遠くを見るように、目を細めた。
少し沈黙を置いてから、表情を緩めて再び俺を見る。

「会ってた可能性はないって、
 キミのそういう正直に言い切るところも、好きかなって思うよ。
 でもほら、縁があったかもって、想像するだけならアリじゃない?」
「想像」
「えーと、なんだっけ。袖振るなんとかが多少はどうとかってやつ」
「袖振り合うも多生の縁?」
「そうそうそれ!
 縁というものはきっと、私達が思っているより壮大な、人智を超えたものだと思います」

いつもの調子で芝居がかった口調になるリリ。
俺は、素直にうなずいて返した。

「そうだな。すれ違ってた……までいかなくても、
 同じ様な時期に北海道にいて、同じ空気を吸ってた可能性はある。
 そんな風に気付かない間に、どこかで結ばれてた縁ってやつはあるかも」
「おーっ、そうそう、それでこそ私の旦那様だよ」
「あはは。ありがとう」

 縁か。
 縁といえば……北海道を旅する中で、農業をやってる友人や知人が何人もできたけど…

 あの頃の俺には、まさか6年後に結婚して、
 自分も農業に関わってるなんて、想像もしてなかったな。

 もしかしたら、あの旅で、彼らと出会ったから……
 農業に情熱をかける彼らへの憧れや尊敬が、俺の中に確かに刻まれていたから……
 今、実家が農業をやっているリリと歩く、この道へと繋がったのかもしれない。

そう考えると、リリとの縁は、あの北海道の旅から始まってたというのも、あながち間違いじゃない気もしてくるな。
もしかしたら、本当に、お互い気付かないままに、どこかで出会ってた、なんてことも……

そんなことをつらつらと考えていると、リリはモニターに映る俺の写真を、優しい笑顔で眺めながら、呟いた。

「もうすぐ読み終わっちゃう。
 ……聞きたくなっちゃったな。記事になってない、キミの旅の話も」
「そうだね。俺も色々思い出してた。
今日は時間あるからゆっくり話そうか」
「うん。えへへ……門外不出の旅話、私が独り占めだね」
「大げさだなぁ。じゃあ、その前にコーヒーを煎れてくるよ」

俺がイスから立ち上がると、リリもついてきた。

「キミが毎日やってるから、ちょっと興味出ちゃった。
 おいしいコーヒーのいれかた、私にも教えてくれる?」
「もちろん。日々是チャレンジ、だね」
「ふふ。うんっ」







妄想中学生リリさん

コメント

  1. 水洋日 より:

    こんにちは。

    こういう2人が結ばれた後の日常談、とっても読みたかったので嬉しいです。

    中学生リリさんも、きらきらやばやばで可愛いですね。

  2. ねもと より:

    ありがとうございます。
    これにはつづきがあるので、そのうち、載せるつもりです。

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